駅に行って何が楽しいんだ?
という方は結構いると思います(普通の反応です)。
しかし一度「駅という空間を味わう」ことを覚えてしまうと、下車するだけで楽しさを感じることができるという、観光地いらずの旅を満喫することが可能になります。
駅、それは無限に広がる世界のワンダーランド!
駅の設備や構造物を観察する、ホームや駅舎、駅前の風景を味わう、といった様々な楽しみ方があります。
とはいえ、駅を巡っている人それぞれ好みの対象が違うので、楽しみ方も人それぞれ。
そこでここでは、私個人が駅をどう楽しんでいるのか、私見を紹介し、駅の楽しさ、見所、探りどころの一端をご説明していこうと思います。
ぜひあなたなりの駅の楽しみを発見して下さい。
それによって、駅での待ち時間が、楽しい時間に変わればなぁ、と思います。
まず、列車から降りて最初に踏むホームからの眺めです。
「駅に着いたなあ」という実感とともに、ここからが駅訪問の始まりです。
ホームの広さはどうでしょう?待合室はありますか?向かい側に広がる風景はどんな感じでしょうか?
あなたがいつも使っている駅との違いは?
東京駅ホーム |
身延線・塩ノ沢駅ホーム |
七尾線・高松駅ホーム |
石勝線・楓駅ホーム |
ホームを横から見ると、「擁壁(ようへき)」もしくは「擁壁面」という壁が見えます。
鉄骨、レンガ、石積み、コンクリートと実に様々です。
中には地層のように段々嵩上げした過程が見て取れるものもあります。
それによって駅が重ねてきた歴史の一端を見ることができます。
横須賀線・逗子駅ホーム |
御殿場線・御殿場駅ホーム |
関西本線・蟹江駅ホーム |
函館本線・渡島大野ホーム |
ホームの形も様々です。
ローカル線で多い1面1線の単式ホーム、
列車の行き違いが可能な島式ホーム・相対式2面2線など、様々です。
また、ホーム幅が広いか狭いかで、駅が置かれた土地の事情などをうかがうこともできます。
◆島式ホーム | ◆相対式ホーム |
七尾線・免田駅ホーム |
高徳線・勝瑞駅ホーム |
◆頭端式ホーム | |
函館本線・函館駅ホーム |
駅名標には、ホーム上に建てられた「建植式」と、屋根にぶら下がっている「吊り下げ式」、
壁にはめ込まれているものなど、色々な形状があります。
一つの駅で何種類もの駅名標があったりするので、探す面白さもあります。
JRは会社別で色分けされているので分かりやすく、同じ形で違う色の駅名標を見ると、
「遠くに来たなあ」という実感がわいたりします。
まれに国鉄時代から使われている駅名標があったりしますが、今はどんどん姿を消しています。
改札を出る前に渡るのが(渡らない時もありますが)跨線橋(こせんきょう)。
これもよく見ると実に様々なタイプがあります。
地方に行くと未だに木造の跨線橋が残っている例もあり、興味がつきません。
中には明治時代に作られた跨線橋も・・・。
武豊線・半田駅 跨線橋 |
石勝線・占冠駅 跨線橋 |
高徳線・池谷駅 跨線橋 |
伊東線・宇佐美駅 跨線橋 |
線路を歩いて渡る「駅構内踏切」はローカル線に多く残っています。
階段を登らなくて良い、という気楽さがあります。
ホームを階段で降りるタイプと、スロープになっているものがあります。
磐越東線・神俣駅 構内踏切 |
牟岐線・桑野駅 構内踏切 |
函館本線・仁山駅 構内踏切 |
小浜線・粟野駅 構内踏切 |
ホーム上にある屋根を、ホーム上家(うわや)と言います。
駅舎が改築されたキレイな駅でも、案外、ホーム上家だけは昔のまま、というのはよくあります。
現在は鉄骨造に波板が乗ったガッシリとしたものが多くなりましたが、
柱も屋根も木造で造られたものや、柱に古レールが使われたものも残っており、観察のしがいがあります。
関西本線・亀山駅 ホーム上家 |
可部線・安野駅 上家 |
和歌山線・妙寺駅 上家 |
和歌山線・橋本駅 上家 |
ホーム上家や跨線橋を支える柱をよく見てみると、古レールが使われていることがあります。
中には100年以上も前のレールに出くわすこともあります。
昭和一桁以前、レールはほとんど輸入に頼っていた関係から、
年代が古くなるにつれ外国製レールとなります。
古レールの側面に社名や製造年が刻印されているので、見分けが可能です。
が、ペンキで厚く塗られていたりすると、刻印の判読が非常に困難になり、
すんなりと読み取れるのはむしろまれです。
イギリス「DARLINGTON IRON(ダーリントン・アイアン)」「CAMMELLS(キャンメル)」
ドイツ「UNION(ウニオン)」「KRUPP(クルップ)」
フランス「MICHEVILLE(ミッシュヴィーユ)」
アメリカ「CARNEGIE(カーネギー)」「COLORADO(コロラド)」「ILINOIS(イリノイ)」
などなど、何十社とあり、ものすごく奥が深い世界です。
たとえレールの社名が分からなくても、「1911」といった四桁の数字による製造年が分かるので、
新しいか古いかはすぐに見分けられることが出来、それだけでも楽しめます。
八高線・寄居駅 UNION社1887年古レール |
東海道本線・関ヶ原駅 CARNEGIE1900年古レール |
中央本線・酒折駅 CAMMELL1887年古レール |
七尾線・宝達駅 ILINOIS1898年古レール |
都心などではほとんどが自動改札に変わっていますが、逆にローカル線では無人駅がどんどん増える・・・。
まあ、それはそれとして、駅の改札口も実に様々です。
木製の改札ラッチは珍しいのでこれは嬉しくなりますね。
東京駅・丸の内北口改札口 |
小浜線・松尾寺駅 改札口 |
紀勢本線・紀伊日置駅 改札口 |
千歳線・南千歳駅 改札口 |
だいたい改札口の脇に存在する「待合室」も様々。
ベンチがたくさん並んでいたり、あるいは広い空間だけがあってベンチがなかったり・・・。
古い木造の造り付けベンチが残っている時は感動します。
また、地方の特産物が展示してあるところなどもあり、興味が尽きません。
待合室内の壁には、その土地の濃い情報が書かれていたりするのでチェックすると楽しい。
関西本線・加太駅 待合室 |
飯山線・津南駅 土産屋・温泉あり |
牟岐線・由岐駅 待合室 (水槽・土産屋あり) |
石勝線・占冠駅 待合室 寒い北海道らしくストーブを設置 |
駅を出ると目の前に広がる通りの風景。
タクシーの列やら、地元をアピールする看板があったり、あるいは何もなかったり・・・。
駅と共に歴史を刻んできた駅前風景には、その土地の特徴が色濃く反映されています。
駅構内といった鉄道施設だけに目を向けるのではなく、ぜひ駅前にも目を向けて欲しいと思います。
その駅が建つ土地の状況が分かる駅前周辺を観察することで、
何故ここに駅があるのかといった、地元と駅の関係を知る一助になります。
駅と合わせてじっくりと見て回りたいものです。
新宿駅 駅前 |
関西本線・伊賀上野駅 駅前 |
牟岐線・田井ノ浜駅 駅前 |
飯田線・小和田駅 駅前 |
そしてメインとも言える駅舎の観察です。
今日降りた駅舎はどんな形の駅でしょうか?木造駅舎?橋上駅舎?
正面からだけでなく、側面やホーム側の駅舎も観察すると、より面白い姿が見えてきます。
武豊線・亀崎駅 駅舎 |
関西本線・河曲駅 駅舎 |
大糸線・有明駅 駅舎 |
七尾線・本津幡駅 駅舎 |
駅舎がいつ建てられたかという、竣工日が書かれているプレートを「建物財産標 or 建物資産標 (「標」は「票」の場合もあり)」と言います。
多くは、駅出入口正面の柱の上部にありますが、これは駅によってまちまちです。
ホーム側の柱にある事もあれば、駅長室のドア上部に貼られていることもあります。
もちろん必ずあるというわけではなく、あったらラッキー、くらいのレア度です。
場所によっては剥がされていたり、ペンキに塗りつぶされていたり・・・。
駅舎以外に、「便所」「上家」「倉庫」「跨線橋」にも財産標がついている場合もありますので根気よく探してみて下さい。
武豊線・亀崎駅 駅本屋建物資産表 |
篠ノ井線・坂北駅 待合室建物財産標 |
和歌山線・妙寺駅 駅本屋建物財産標 |
紀勢本線・伊勢柏崎 便所建物財産標 |
さて駅の周りには・・・
無くてはならないトイレ。駅の中にある場合と、外にしかない場合、
内にも中にもあるけれど一つの建物のトイレと、トイレも様々なタイプがあるんですね。
ローカル線に行けば、まだまだ戦前のトイレ、明治、大正時代のトイレが残っています。
伊東線・宇佐美駅 便所 |
関西本線・富田浜駅 昭和11年12月竣工の便所 |
青梅線・奥多摩駅 二階建てトイレ(トイレ部分は吹き抜け) |
和歌山線・田井ノ瀬駅 昭和10年3月竣工便所 |
駅構内の駅舎脇などに、たまーにあるのが危険品庫(ランプ小屋)。
鉄道創業時、電灯がまだ普及されていなかったことから、室内灯や信号灯等は全て石油ランプだったそうで、
その重要であると同時に危険な石油を保管する場所として、ランプ小屋/危険品庫が多く作られた、というわけだそうです。
今ではあまり活用されていないようですが、全然使われていないというわけでもないようです。
そんな危険なにおいのする建物。実用性重視の割には形が実に色々あって楽しめます。
奈良線・稲荷駅 ランプ小屋 |
両毛線・岩宿駅 ランプ小屋 |
函館本線・渡島大野駅 ランプ小屋 |
鹿児島本線・有佐駅 ランプ小屋 |
さて、駅というのは実に様々な見所があるもので、
ここで紹介した物以外にもまだまだ突っ込みどころが豊富にあります。
全てを見ていては時間が掛かるし、知識も必要なので、
私などは、ここで紹介した物は極力見るようにしていますが、
必ずというわけでもないです。(特に古レールはキリがない)
躍起になってしまうと疲れるので(駅訪問数は躍起になっていますが・・・)
ほどほどに、楽しんで駅を見るようにしています。
鉄道考古学を歩く
JTBキャンブックス 浅野明彦
鉄道施設がわかる本 坂本衛
駅舎再発見
JTBキャンブックス 杉崎行恭
日本の駅舎
JTBキャンブックス 杉崎行恭
駅旅のススメ―新『日本の駅舎』100選と訪ねたい駅風景40 杉崎行恭